昔話ー章1ー第14

章1-第 14

 

聴:

 

キツネの倉

 

キツネの倉

むかしむかし、一人の男が荒地(あれち)を畑にしようと掘り起こしていると、
「ガチン!」
と、クワが思いっきり石を叩いてしまったのです。
「しまった! 大切なクワが!」
 クワが割れてしまったので、男はクワを直してもらう為に鍛冶屋(かじや)へ行きました。
 その途中、手に棒を持った子どもたちが、捕まえたキツネを叩いていじめていたのです。
「こら、お前たち、やめねえか。キツネが、可愛そうだろう」
「だって、これはおらたちが捕まえたキツネだ。どうしようと、おらたちの勝手だろう」
 子どもたちは、キツネをいじめるのを止めようとはしません。
 そこで男は、
「それなら、そのキツネをおらに売ってくれんか?」
と、男はクワを鍛冶屋で直してもらう為のお金を子どもたちにやって、キツネを買い取りました。
 そしてキツネを子どもたちのいない所へ行って逃がしてやろうと思ったところで、ふと思いました。 
「おらは、何をやっているんじゃろう?
 新しい畑を作るには、クワがいる。
 そのクワを直してもらうには、鍛冶屋に払うお金がいる。
 でも、そのお金がなくなってしもうた。
 このキツネが、クワを直してくれるのならともかく。
 ・・・こりゃ大変だ。
 キツネよ、悪いがそう言う事だ」
 男はまた子どもたちのところへ行って、キツネを渡してお金を返してもらいました。
 すると子どもたちは、前よりももっとキツネをいじめるのです。 
 それを見かねて、男はまた子どもたちのところへ行くと、
「止めてくれ、今度は本当に買うから」
と、またお金を渡して、キツネを買い戻しました。
 そしてキツネを山へ連れて行き、
「もう、二度と捕まるなよ」
と、言って、逃してやりました。

 それから数日後、男の家にあの時のキツネがやって来て言いました。
「この間は、危ないところを助けて頂いて、ありがとうございました。
 恩返しに、何かを差し上げたいと思います。
 わたしの家にはキツネの倉(くら)と言って、無い物は無いという倉があります。
 よろしければ、あなたの望みの物を好きなだけお持ち下さい」
 それを聞いた男は、キツネと一緒にキツネの倉へ行きました。
「さあ、これがキツネの倉です。どうぞ、中へ入って好きな物を取って下さい」
 喜んだ男が倉の中へ入って行くと、キツネが倉の戸をバタンと閉めました。
 そして大きな声で、
泥棒だ! 倉に泥棒が入ったぞ!」
と、叫んだのです。
 すると、あちこちからたくさんの人が集まって来て、
「泥棒は殺せー! 泥棒を殺すんだー!」
と、言うのです。
 倉に閉じ込められた男は、ビックリです。
「違う、違うんだ。おらは泥棒でねえ」
 男は必死で言いましたが、外の人たちは聞いてくれません。
「泥棒は殺せー! 泥棒を殺すんだー!」
 男は怖くなって、倉のすみっこでブルブルと震えていました。
「だっ、だまされた。キツネの奴に、だまされた」
 でもしばらくすると外の騒ぎがおさまって、倉の戸がガラガラと開きました。
 そして、さっきのキツネが言いました。
「ビックリさせて、すみません。
 さあ、クワでも着物でもお金でも、好きな物を持てるだけ持って出て来て下さい」
 男は訳が分からず、取りあえず言われたまま持てるだけの物を持って倉から出て来ました。
「どうです。さっき閉じ込められた感想は?」
「どうだったも何も、恐ろしくて、生きた心地がしなかった」
 男がそう言ったので、キツネは満足そうに頷くと、 
「そうでしょう。
 実はわたしも先日、同じ思いをしました。
 あなたに助けてもらった時は、心の底から喜びましたよ。
 でもその後で、また子どもたちに返された時は、もう生きた心地はしませんでした。
 そして最後には、再び助け出されたわけですが、あの時の事を考えると今でも体が震えます。
 あなたに恩返しをする前に、これを知って欲しかったのです 」
と、言ったという事です。

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

キツネの倉

 

キツネの倉

むかしむかし、いちにんおとこ荒地あれちはたけにしようとこしていると、

「ガチン!」
と、クワが
おもいっきりいしたたいてしまったのです。
「しまった! 
大切たいせつなクワが!」
 クワが
れてしまったので、おとこはクワをなおしてもらうため鍛冶たんやきました。
 その
途中とちゅうぼうったどもたちが、つかまえたキツネをたたいていじめていたのです。
「こら、お
まえたち、やめねえか。キツネが、可愛かわいそうだろう」
「だって、これはおらたちが
つかまえたキツネだ。どうしようと、おらたちの勝手かってだろう」
 
どもたちは、キツネをいじめるのをめようとはしません。
 そこで
おとこは、
「それなら、そのキツネをおらに
ってくれんか?」
と、
おとこはクワを鍛冶たんやなおしてもらうためのおかねどもたちにやって、キツネをりました。
 そしてキツネを
どもたちのいないところってがしてやろうとおもったところで、ふとおもいました。 
「おらは、
なにをやっているんじゃろう?
 
あたらしいはたけつくるには、クワがいる。
 そのクワを
なおしてもらうには、鍛冶たんやはらうおかねがいる。
 でも、そのお
かねがなくなってしもうた。
 このキツネが、クワを
なおしてくれるのならともかく。
 ・・・こりゃ
大変たいへんだ。
 キツネよ、
わるいがそうことだ」
 
おとこはまたどもたちのところへって、キツネをわたしておかねかえしてもらいました。
 すると
どもたちは、まえよりももっとキツネをいじめるのです。 
 それを
かねて、おとこはまたどもたちのところへくと、
めてくれ、今度こんど本当ほんとううから」
と、またお
かねわたして、キツネをもどしました。
 そしてキツネを
やまれてき、
「もう、
二度にどつかまるなよ」
と、
って、のがしてやりました。

 それから
すうにちおとこいえにあのときのキツネがやっていました。
「この
かんは、あぶないところをたすけていただいて、ありがとうございました。
 
恩返おんがえしに、なにかをげたいとおもいます。
 わたしの
いえにはキツネのくら(くら)とって、ものいというくらがあります。
 よろしければ、あなたの
のぞみのものきなだけおください」
 それを
いたおとこは、キツネと一緒いっしょにキツネのくらきました。
「さあ、これがキツネの
くらです。どうぞ、なかはいってきなものってください」
 
よろこんだおとこくらなかはいってくと、キツネがくらをバタンとめました。
 そして
おおきなこえで、
泥棒どろぼうだ! くら泥棒どろぼうはいったぞ!」
と、
さけんだのです。
 すると、あちこちからたくさんの
ひとあつまってて、
泥棒どろぼうころせー! 泥棒どろぼうころすんだー!」
と、
うのです。
 
くらめられたおとこは、ビックリです。
ちがう、ちがうんだ。おらは泥棒どろぼうでねえ」
 
おとこ必死ひっしいましたが、そとひとたちはいてくれません。
泥棒どろぼうころせー! 泥棒どろぼうころすんだー!」
 
おとここわくなって、くらのすみっこでブルブルとふるえていました。
「だっ、だまされた。キツネの
やつに、だまされた」
 でもしばらくすると
そとさわぎがおさまって、くらがガラガラとひらきました。
 そして、さっきのキツネが
いました。
「ビックリさせて、すみません。
 さあ、クワでも
着物きものでもおかねでも、きなものてるだけってください」
 
おとこわけからず、りあえずわれたままてるだけのものってくらからました。
「どうです。さっき
められた感想かんそうは?」
「どうだったも
なにも、おそろしくて、きた心地ここちがしなかった」
 
おとこがそうったので、キツネは満足まんぞくそうにうなずくと、 
「そうでしょう。
 
じつはわたしも先日せんじつおなおもいをしました。
 あなたに
たすけてもらったときは、こころそこからよろこびましたよ。
 でもその
で、またどもたちにかえされたときは、もうきた心地ここちはしませんでした。
 そして
最後さいごには、ふたたたすされたわけですが、あのときことかんがえるといまでもからだふるえます。
 あなたに
恩返おんがえしをするまえに、これをってしかったのです 」

と、ったということです。

おしまい

 

 

 

NHẬN XÉT

 
 

 
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