昔話ー章1ー第7

章1-第 7

 

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勝海舟の写し本

勝海舟の写し本

 

明治時代を築くのに大活躍をした人物に、勝海舟がいます。
 彼は下級旗本だった父親の期待を受けて蘭学や剣術をよく学び、三十三歳の若さで幕府の役職に就きました。
 長崎では海軍技術を学び、弟子の坂本竜馬とともに海軍操練所をつくっています。
 その後も反幕府派との関係修復に力をつくした勝海舟は、1868年、江戸を攻めようとする官軍に江戸城を明け渡して江戸を戦火から守った人物です。
 これは、その勝海舟が若い頃のお話しです。

 勝海舟は大変な勉強好きですが、お金がないので毎日の様に古本屋に通って本を読んでいました。

 ある日の事、勝海舟が読んでいた兵法(へいほう→戦術)の本が見当たりません。
 そこで勝海舟は、古本屋の主人にたずねました。
「主人、あの本はどこにあるのだ?」
「はい、あの本とは?」
「昨日までこのたなにあった、兵法の本だ」
「・・・ああ、あれですか。申し訳ございません。あれはさきほど、四谷の奉行所のお役人さまが買われていきました」
「四谷の・・・。おおっ、そのお役人なら知っているぞ」
 そこで勝海舟は、さっそくその役人の家まで行くと、
「どうか、あなたさまがお買いになった兵法のご本を、わたしに貸してください」
と、頼み込んだのです。
 でもその役人は、首を横に振って断りました。
「だめだ、だめだ。今買ったばかりで、まだ読んでいないのだから」
 しかし、ここであきらめる様な勝海舟ではありません。
「では夜に、ご本をうつさせていただいてもよろしいでしょうか? あなたさまが、おやすみになった後で」
「・・・うむ、まあ、それならいいが。しかしあれは、かなり分厚い本だぞ」
「はい、承知しております」
 それから勝海舟は夜になると役人の家にやって来て、朝になるまでずっと本をうつし続けたのです。
 やがて、半年が過ぎました。

 ある秋の朝、勝海舟は起きてきた役人に、深々と頭を下げて言いました。
「おかげさまで、全部うつし終わりました。ありがとうございます」
 それを聞いて、役人はびっくりです。
「あれを、全部うつし終えたのか? それは何とも、感心な人だ。それほど気に入った本なら、あなたに差し上げましょう」
「いえいえ、とんでもない。それにわたしは、うつさせていただきましたから」
 すると役人は、頭をかきながらこう言いました。
「あはははは。
 いや実はね、あの本は読むためでなく、人に自慢するために買ったんだよ。
『わたしは、こんなに難しい本を読んでいますよ』ってね。
 試しに少しだけ読んでみたが、ぜんぜん分からなかったよ。

おしまい

 

ふりがな

 

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勝海舟の写し本

 

勝海舟の写し本

明治時代じだいきずくのにだい活躍かつやくをした人物じんぶつに、勝海かつみふねがいます。

 かれ下級かきゅう旗本はたもとだった父親ちちおや期待きたいけて蘭学らんがく剣術けんじゅつをよくまなび、さんじゅうさんさいわかさで幕府ばくふ役職やくしょくきました。
 
長崎ながさきでは海軍かいぐん技術ぎじゅつまなび、弟子でし坂本さかもと竜馬りょうまとともに海軍かいぐんみさおねりしょをつくっています。
 その
はん幕府ばくふとの関係かんけい修復しゅうふくちからをつくしたかつ海舟かいしゅうは、1868ねん江戸えどめようとする官軍かんぐん江戸城えどじょうわたして江戸えど戦火せんかからまもった人物じんぶつです。
 これは、その
勝海かつみふねわかころのおはなしです。

 
かつ海舟かいしゅう大変たいへん勉強べんきょうきですが、おかねがないので毎日まいにちよう古本屋ふるほんやかよってほんんでいました。

 ある
こと勝海かつみふねんでいた兵法ひょうほう(へいほう→戦術せんじゅつ)のほん見当みあたりません。
 そこで
かつ海舟かいしゅうは、古本屋ふるほんや主人しゅじんにたずねました。
主人しゅじん、あのほんはどこにあるのだ?」
「はい、あの
ほんとは?」
昨日きのうまでこのたなにあった、兵法ひょうほうほんだ」
「・・・ああ、あれですか。
もうわけございません。あれはさきほど、四谷よつや奉行ぶぎょうしょのお役人やくにんさまがわれていきました」
四谷よつやの・・・。おおっ、そのお役人やくにんならっているぞ」
 そこで
かつ海舟かいしゅうは、さっそくその役人やくにんいえまでくと、
「どうか、あなたさまがお
いになった兵法ひょうほうのごほんを、わたしにしてください」
と、
たのんだのです。
 でもその
役人やくにんは、くびよこってことわりました。
「だめだ、だめだ。
いまったばかりで、まだんでいないのだから」
 しかし、ここであきらめる
よう勝海かつみふねではありません。
「では
よるに、ごほんをうつさせていただいてもよろしいでしょうか? あなたさまが、おやすみになったのちで」
「・・・うむ、まあ、それならいいが。しかしあれは、かなり
分厚ぶあつほんだぞ」
「はい、
承知しょうちしております」
 それから
かつ海舟かいしゅうよるになると役人やくにんいえにやってて、あさになるまでずっとほんをうつしつづけたのです。
 やがて、
半年はんとしぎました。

 ある
あきあさかつ海舟かいしゅうきてきた役人やくにんに、深々ふかぶかあたまげていました。
「おかげさまで、
全部ぜんぶうつしわりました。ありがとうございます」
 それを
いて、役人やくにんはびっくりです。
「あれを、
全部ぜんぶうつしえたのか? それはなんとも、感心かんしんひとだ。それほどったほんなら、あなたにげましょう」
「いえいえ、とんでもない。それにわたしは、うつさせていただきましたから」
 すると
役人やくにんは、あたまをかきながらこういました。
「あはははは。
 いや
じつはね、あのほんむためでなく、ひと自慢じまんするためにったんだよ。
『わたしは、こんなに
むずかしいほんんでいますよ』ってね。

 ためしにすこしだけんでみたが、ぜんぜんからなかったよ。

おしまい

 

 

 

NHẬN XÉT

 
 

 
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