章4-第6

章4-第6

 

聴:

 

 

風呂のぬか団子

 

むかしむかし、田舎(いなか)のお百姓(ひゃくしょう)さんが、初めて江戸(えど→東京都)へ出て来ました。

「ごめんなさい。今晩、泊めてください」
 お百姓さんが、
宿屋の前でそう言うと、
「はい、ただいま。さあ、どうぞどうぞ」
 宿屋の
女中(じょちゅう)さんは、お百姓さんを部屋に案内しながら言いました。
「ご飯を先にしますか? それともお風呂にしますか?」
「へえ、お風呂に入れてもらいましょう」
「では、こちらへ」
 お百姓さんは女中さんに案内されて、お風呂場へ行きました。
 お風呂場には、ぬかと塩が置いてありました。
 むかしは石けんも歯ブラシもなかったので、ぬかで顔を洗い、塩で歯をみがいたのです。
 でも、このお百姓さんは、そんな事は知りません。
「はあ、これはきっと、ぬかダンゴを作って食べろというんだな」
 そう思い、ぬかに塩を入れて水でねり、ダンゴを作って食べました。
「こりゃうまい。こいつは、なかなか上等なぬかじゃ」
 お百姓さんは、ぬかダンゴをすっかり食べてしまいました。

 さて、お風呂からあがって部屋にもどると、女中さんがご飯を持って来ました。
 それを見て、お百姓さんが言いました。
「おら、お風呂でぬかダンゴを食ったから、もう、お腹がいっぱいじゃ」
「えっ? ぬかダンゴ?」
「ああ、とてもうまかったよ」
 女中さんは、ビックリしました。
 でも、お百姓さんに恥(はじ)をかかせてはいけないと思って、そのままご飯をさげました。
(もしかしたら、明日の朝も顔を洗う時に、ぬかを食べてしまうかもしれない)
 親切な女中さんは、ぬかと塩の代わりに、おもちを置いてあげました。

 さて次の朝、お百姓さんがお風呂場に行ってみるとどうでしょう。
 ほかのお客さんは、ぬかを手ぬぐいに包んで顔を洗っているのです。
「何と、ぬかは顔を洗うもんだったか。こりゃ、とんでもない恥(はじ)をかいてしまった」

 さて、お百姓さんが顔を洗おうとすると、目の前におもちが置いてあります。
「よし、今度は間違わないぞ」
 お百姓さんはおもちを手ぬぐいに包んで、ごしごしと顔を洗いました。
 するとおもちがとけて、顔にベタベタとつきました。
 それでもお百姓さんは、うれしそうに言いました。
「やれやれ、今日は恥をかかずにすんだわい」
 ところが顔は、おもちだらけです。
 それを見た女中さんは、とうとう腹をかかえて大笑いしました。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

風呂のぬか団子

 

むかしむかし、田舎いなか(いなか)のお百姓ひゃくしょう(ひゃくしょう)さんが、はじめて江戸えど(えど→東京とうきょう)へました。
「ごめんなさい。
今晩こんばんめてください」
 お
百姓ひゃくしょうさんが、宿屋やどやまえでそううと、
「はい、ただいま。さあ、どうぞどうぞ」
 
宿屋やどや女中じょちゅう(じょちゅう)さんは、お百姓ひゃくしょうさんを部屋へや案内あんないしながらいました。
「ご
はんさきにしますか? それともお風呂ふろにしますか?」
「へえ、お
風呂ふろれてもらいましょう」
「では、こちらへ」
 お
百姓ひゃくしょうさんは女中じょちゅうさんに案内あんないされて、お風呂場ふろばきました。
 お
風呂場ふろばには、ぬかとしおいてありました。
 むかしは
せっけんもブラシもなかったので、ぬかでかおあらい、しおをみがいたのです。
 でも、このお
百姓ひゃくしょうさんは、そんなことりません。
「はあ、これはきっと、ぬかダンゴを
つくってべろというんだな」
 そう
おもい、ぬかにしおれてみずでねり、ダンゴをつくってべました。
「こりゃうまい。こいつは、なかなか
上等じょうとうなぬかじゃ」
 お
百姓ひゃくしょうさんは、ぬかダンゴをすっかりべてしまいました。

 さて、お
風呂ふろからあがって部屋へやにもどると、女中じょちゅうさんがごはんってました。
 それを
て、お百姓ひゃくしょうさんがいました。
「おら、お
風呂ふろでぬかダンゴをったから、もう、おなかがいっぱいじゃ」
「えっ? ぬかダンゴ?」
「ああ、とてもうまかったよ」
 
女中じょちゅうさんは、ビックリしました。
 でも、お
百姓ひゃくしょうさんにはじ(はじ)をかかせてはいけないとおもって、そのままごはんをさげました。
(もしかしたら、
明日あしたあさかおあらときに、ぬかをべてしまうかもしれない)
 
親切しんせつ女中じょちゅうさんは、ぬかとしおわりに、おもちをいてあげました。

 さて
つぎあさ、お百姓ひゃくしょうさんがお風呂場ふろばってみるとどうでしょう。
 ほかのお
きゃくさんは、ぬかをぬぐいにつつんでかおあらっているのです。
なにと、ぬかはかおあらうもんだったか。こりゃ、とんでもないはじ(はじ)をかいてしまった」

 さて、お
百姓ひゃくしょうさんがかおあらおうとすると、まえにおもちがいてあります。
「よし、
今度こんど間違まちがわないぞ」
 お
百姓ひゃくしょうさんはおもちをぬぐいにつつんで、ごしごしとかおあらいました。
 するとおもちがとけて、
かおにベタベタとつきました。
 それでもお
百姓ひゃくしょうさんは、うれしそうにいました。
「やれやれ、
今日きょうはじをかかずにすんだわい」
 ところが
かおは、おもちだらけです。
 それを
女中じょちゅうさんは、とうとうはらをかかえて大笑おおわらいしました。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
 
 
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